第二種電気工事士としていくつかの現場を経験してくると、ふとした瞬間に自分のキャリアについて考えることがあるかもしれません。「もっと大きな建物の電気工事全体に関わってみたい」「いつかは責任者として現場を動かす立場になりたい」「自分の技術者としての価値を、もっと確かなものにしておきたい」。こうした思いが、次のステップとして「第一種電気工事士」という資格を意識させます。
しかし、その一方で、日々の業務に追われる中で新しい挑戦に踏み出すのは簡単なことではありません。「今の給料に大きな不満はないし、無理して難しい資格を取る必要があるのだろうか」「勉強を始めるにしても、どれくらい大変なのか見当もつかない」「本当に、かけた時間と労力に見合うだけの見返りがあるのか」。そんな疑問や不安が頭をよぎるのも、ごく自然なことです。
資格の取得は、時間や費用、そして何より自身の熱意という大切な資源を投じる、いわば「自己投資」です。だからこそ、その投資が将来どのような形で自分に返ってくるのか、具体的なイメージを持っておきたいと考えるのは当然でしょう。この記事は、単に資格の難しさを解説するものではありません。その難易度の先にある、あなたのキャリアや収入にどのような変化が訪れる可能性があるのか。そのリアルな投資対効果を、一つひとつ丁寧に見ていきます。
主要な電気系資格との比較ランキング|第一種の現在地とは
「第一種電気工事士は、どれくらい難しいのか?」この疑問に答えるため、まずは他の主要な電気系資格と比較しながら、その客観的な立ち位置を見ていきましょう。資格の難易度を測るものさしはいくつかありますが、ここでは「合格率」「必要な勉強時間」「受験資格」の三つの観点から見ていきます。
合格率から見る難易度
一般的に、資格試験の難易度を示す最も分かりやすい指標が合格率です。以下は、近年の各資格のおおよその合格率です。
第二種電気工事士(筆記):約60%
第一種電気工事士(筆記):約50%
1級電気工事施工管理技士(第一次検定):約45%
第三種電気主任技術者(電験三種):約15%
この数字を見ると、第一種電気工事士の筆記試験の合格率は、第二種よりも少し低い程度で、電験三種のような極端な難しさではないことが分かります。しかし、油断はできません。受験者の多くが既に第二種の資格を持つ実務経験者であることを考えると、その中での約半数しか合格できない、質の高い競争であることがうかがえます。技能試験も含めた最終的な合格率は、例年40%前後になることが多いようです。
必要な勉強時間の目安
資格取得までに、どれくらいの学習時間が必要になるかも重要な指標です。もちろん個人差はありますが、一般的な目安は以下のようになります。
第二種電気工事士:約100~200時間
第一種電気工事士:約300~500時間
1級電気工事施工管理技士:約200~400時間
第三種電気主任技術者(電験三種):約1000時間
第一種電気工事士は、第二種の2倍から3倍程度の勉強時間が必要になると言われています。働きながら毎日1時間ずつ勉強したとしても、1年以上かかる計算になります。計画的に学習を進める強い意志が求められるでしょう。
受験資格という「壁」
そして、第一種電気工事士の難易度を語る上で欠かせないのが、受験資格として定められている「実務経験」です。試験に合格しただけでは免状の交付は受けられず、大学・高専の指定学科卒業者で3年、それ以外の場合は5年以上の実務経験が必要となります。この経験の期間そのものが、資格の価値と専門性を担保していると言えるでしょう。
合格率だけでは見えない、第一種取得における「3つの壁」
第一種電気工事士の試験は、単に合格率や勉強時間のデータだけでは測れない、特有の難しさを持っています。多くの受験者が直面する、乗り越えるべき三つの「壁」について、もう少し詳しく見ていきましょう。これらの壁を理解することが、効果的な学習計画を立てる第一歩となります。
現場の応用力が問われる「筆記試験の壁」
筆記試験の合格率が約50%と聞くと、それほど難しくないように感じるかもしれません。しかし、その中身は第二種電気工事士の試験とは大きく異なります。第二種が住宅や小規模店舗といった身近な範囲の知識を問うのに対し、第一種では工場やビルといった大規模施設の電気設備が対象となります。
出題される問題も、単なる暗記だけでは対応できない、計算問題や応用問題の比率が高くなります。高圧受電設備の仕組みや、複雑な配線図の読解など、現場での実践的な知識と結びつけて理解していなければ、正解にたどり着くのは難しいでしょう。過去問題を解くだけでなく、なぜそうなるのかという理論的な背景までしっかりと学習することが、この壁を乗り越える鍵となります。
時間との戦いになる「技能試験の壁」
もう一つの大きな壁が、技能試験です。制限時間60分という短い時間の中で、支給された材料を使って、指定された配線作業を正確に完成させなければなりません。第一種の技能試験では、第二種では扱わない太いケーブルの接続や、より複雑な結線作業が求められます。
普段の仕事で工具の扱いに慣れている方でも、試験という特別な環境下で、時間内にミスなく作業を終えるのは想像以上のプレッシャーがかかります。ケーブルの寸法を間違えたり、結線を一つでも誤ったりすれば、その時点で不合格となってしまいます。繰り返し候補問題を練習し、身体が自然に動くレベルまで手順を覚え込む地道な努力が不可欠です。
資格の価値を支える「実務経験の壁」
前にも触れましたが、最も本質的な壁は「実務経験」そのものかもしれません。試験はあくまで、その時点での知識と技能を確認するもの。第一種電気工事士という資格の本当の価値は、法律で定められた3年や5年といった期間、実際の現場で培われた経験に裏打ちされている点にあります。この経験があるからこそ、資格が社会的な信頼を得ているのです。日々の業務一つひとつが、資格取得に向けた重要なステップになっていると捉え、目の前の仕事に真摯に取り組む姿勢が、結果的に合格への一番の近道となるでしょう。
投資対効果を徹底分析。あなたの年収はいくら上がるのか?
多大な時間と労力をかけて第一種電気工事士の資格を取得するからには、それに見合うだけの具体的なリターン、特に経済的なメリットがどれくらいあるのかは最も気になるところでしょう。資格という「投資」が、将来の収入にどう結びつくのかを冷静に見ていきましょう。
資格手当による直接的な収入アップ
多くの電気工事会社では、資格取得者を評価する制度として「資格手当」が設けられています。これは、毎月の給与に上乗せされる形で支給されるものです。会社によって金額は異なりますが、第二種電気工事士が数千円程度であるのに対し、第一種電気工事士の場合は1万円から2万円、あるいはそれ以上に設定されていることが少なくありません。
仮に月1万円の手当だとしても、年間で12万円の収入アップになります。これは、資格を持っているだけで継続的に得られる安定した収入です。また、資格取得を奨励するために、合格時に一時金として報奨金を支給する企業も多く存在します。こうした制度は、学習にかかった費用を回収し、モチベーションを維持する上で大きな助けとなるはずです。
昇進・昇給への大きなアドバンテージ
第一種電気工事士の資格は、単なる手当にとどまらず、あなたのキャリアそのものを押し上げる力を持っています。特に、職長や現場代理人といった責任ある立場を目指す上で、この資格は非常に強力な武器となります。
大規模な工事現場では、主任技術者として第一種電気工事士の資格を持つ者が配置されることが法律で義務付けられています。そのため、企業としても資格保有者は不可欠な人材であり、重要なポストを任せやすくなります。責任ある立場になれば、当然ながら役職手当などがつき、基本給そのものも大きく上がることが期待できます。第二種保有者のままではなかなか見えてこなかった、より高いキャリアの道が開ける可能性が高まるのです。
転職市場における圧倒的な「市場価値」
将来的に、さらなるキャリアアップを目指して転職を考えたとき、第一種電気工事士の資格はあなたの市場価値を客観的に証明する「証明書」として機能します。多くの求人情報で、応募条件として第一種電気工事士が指定されていたり、保有者が優遇されたりするのを目にするはずです。
特に、好待遇が期待できる大手企業や、専門性の高いプラント・工場などの設備管理を行う企業への転職においては、必須の資格となることも珍しくありません。資格があることで、選べる企業の幅が広がり、より良い労働条件や高い給与を提示される可能性が格段に高まります。これは、あなたのキャリアにおける選択肢を増やし、より主体的に自分の働き方を選べるようになることを意味します。
資格を活かしきる「現場選び」。あなたの価値が最大化する環境とは
第一種電気工事士の資格という強力な武器を手にしたとき、次に重要になるのが、その力を最大限に発揮できる「戦場」、つまり職場選びです。資格の価値は、それを活かせる環境に身を置くことで初めて輝きます。ここでは、あなたの専門性が特に求められ、評価される現場の例をいくつかご紹介します。
高度な技術が求められる工場やプラント
製造業の工場や化学プラントといった施設は、第一種電気工事士が活躍できる代表的な現場です。これらの施設では、生産ラインを動かすための多種多様な動力設備や、精密な制御を必要とする計装設備、そして施設全体に電気を供給するための高圧受電設備など、複雑で大規模な電気システムが稼働しています。
設備の安定稼働は、企業の生産活動に直結するため、電気のプロフェッショナルに対する要求レベルは非常に高くなります。定期的なメンテナンスだけでなく、生産効率を上げるための設備更新や、省エネ化に向けた改修工事など、専門知識を活かした提案が求められる場面も少なくありません。責任は大きいですが、その分、技術者としての大きなやりがいと成長を実感できる環境と言えるでしょう。
社会を支えるインフラとなる大規模建築物
多くの人々が利用するオフィスビル、商業施設、病院、データセンターなども、第一種電気工事士の知識と経験が不可欠な現場です。これらの建築物では、照明や空調、防災設備、通信設備など、あらゆるシステムが電気によって支えられています。
特に新築工事の現場では、設計図を基に、他業種の職人たちと連携しながら、ゼロから電気設備を構築していくダイナミックな仕事に携わることができます。また、完成後の保守・管理においても、施設の安全と快適さを守る重要な役割を担います。社会の基盤を支えているという実感は、この仕事ならではの大きな魅力です。
未来をつくる再開発やエネルギー関連事業
都市の再開発プロジェクトや、太陽光発電所といった再生可能エネルギー関連の事業も、今後ますます第一種電気工事士の活躍が期待される分野です。古い建物の電気設備を最新のシステムに入れ替えたり、新しいエネルギー供給の形を構築したりと、未来の社会づくりに直接貢献することができます。これらの分野は技術の進歩が速く、常に新しい知識やスキルを学び続ける姿勢が求められますが、時代の最先端で働ける刺激的な環境です。
どのような現場で自分の技術を活かしたいのか、じっくり考えてみることが大切です。
私たちの仕事が、具体的にどのような現場で社会を支えているのか、よろしければ一度ご覧ください。
https://www.irokawadenki.jp/business
まとめ:あなたの5年後のキャリアプランに、第一種は必要か?
ここまで、第一種電気工事士の難易度をさまざまな角度から見てきました。合格率や勉強時間といった客観的なデータから、その裏にある技能や実務経験の重要性、そして資格取得によって得られる具体的なメリットまで、ご理解いただけたかと思います。
改めて振り返ると、第一種電気工事士は、決して簡単に取得できる資格ではありません。日々の仕事と両立しながら、計画的に学習を進める強い意志と、地道な努力の積み重ねが求められます。それは、時間と労力を要する、まぎれもない「自己投資」です。
しかし、その投資の先には、資格手当による直接的な収入アップだけでなく、より責任ある立場への昇進や、好待遇の企業への転職といった、キャリアの可能性を大きく広げる道が拓けています。それは、誰かに与えられるものではなく、あなた自身の努力で掴み取ることができる、未来への切符とも言えるでしょう。
最終的に、この資格に挑戦するかどうかを決めるのは、あなた自身です。大切なのは、5年後、10年後の自分が、どのような技術者になっていたいかを想像してみることです。もし、あなたの思い描く未来の姿に、この資格が必要だと感じるのであれば、挑戦する価値は十分にあります。この記事が、あなたの次の一歩を踏み出すための、小さなきっかけとなれば幸いです。
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