意外と知らない「弱電設備工事」の世界(LAN・防犯カメラ・火災報知器)とその将来性

「電気工事」と聞いて、皆さんはどんな仕事を思い浮かべるでしょうか。壁の中に電線を通して照明やコンセントを取り付けたり、大きな機械に電気を送ったり。そうした、力強いエネルギーを扱う「強電(きょうでん)」と呼ばれる工事は、電気工事の代表的な姿です。しかし、私たちの現代社会には、もう一つ、なくてはならない電気工事が存在します。


それが、情報を運ぶ「弱電(じゃくでん)」の世界です。


皆さんがオフィスや自宅でパソコンをインターネットに繋いだり、スマートフォンでWi-Fiを利用したり、あるいは街角の防犯カメラが安全を見守っていたり。これら全ては、弱電設備工事の技術者たちが、建物の隅々にまで情報の通り道、いわば「社会の神経網」を張り巡らせてくれているおかげなのです。


強電が社会の「心臓や筋肉」だとしたら、弱電は「脳や神経」。どちらが欠けても、社会は正常に機能しません。この記事では、普段あまり意識されることのない、しかしITやDX(デジタルトランスフォーメーション)の最前線で、ますますその重要性を増している「弱電設備工事」の奥深い世界とその将来性について、ご紹介していきます。




通信、防災、音響…多岐にわたる弱電設備工事の主な種類

弱電設備工事とひとことで言っても、その領域は非常に広く、多岐にわたります。それは、私たちの暮らしや仕事が、いかに多くの情報システムに支えられているかの表れでもあります。ここでは、その代表的な種類をいくつか見ていきましょう。



社会の基盤となる「情報通信設備」

現代のオフィスや家庭で、最も身近な弱電設備と言えるのが、この情報通信設備です。パソコンをインターネットに繋ぐための「LAN配線工事」や、社内外のコミュニケーションを支える「電話設備工事」、そして快適なモバイル環境を作るための「Wi-Fi環境の構築」などがこれにあたります。これらは、ビジネスや生活の根幹をなす、まさにITインフラの土台作りと言える仕事です。



人々の安全・安心を守る「防災・防犯設備」

弱電設備は、私たちの命や財産を守る上でも、欠かせない役割を担っています。煙や熱を感知して、火災の発生を知らせる「自動火災報知設備」。事件や事故の記録、そして犯罪の抑止力となる「防犯カメラ(監視カメラ)設備」。そして、特定のエリアへの人の出入りを管理する「入退室管理システム」。これらの設備は、人々の安全・安心な暮らしを、24時間365日、静かに支え続けています。



豊かなコミュニケーションを生む「AV(音響・映像)設備」

暮らしや仕事の場を、より快適で便利なものにするための設備も、弱電工事の大切な領域です。マンションなどの集合住宅で、各家庭にテレビ放送を届ける「テレビ共聴設備」。学校や商業施設で、館内放送や緊急放送を行うための「放送設備(PAシステム)」。そして、会議室でプレゼンテーションを行うための「プロジェクターやスクリーンの設置」なども、弱電技術者が活躍する舞台です。


このように、弱電設備工事は、非常に幅広い分野で社会と深く関わっているのです。




扱う電圧だけじゃない。強電工事と弱電工事の、仕事の進め方の違い

強電と弱電の最も分かりやすい違いは、その名の通り、扱う電気の電圧の高さです。一般的に、強電が100ボルト以上の高い電圧を扱うのに対し、弱電はそれ以下の、比較的低い電圧を扱います。しかし、両者の違いはそれだけではありません。仕事の目的や進め方、そして求められるスキルにも、大きな違いがあるのです。



「動力」を運ぶ強電、「情報」を運ぶ弱電

その最も本質的な違いは、運ぶものの違いにあります。強電工事の目的が、機械を動かし、明かりを灯すための「エネルギー(動力)」を安全に運ぶことであるのに対し、弱電工事の目的は、映像や音声、データといった「情報(信号)」を、正確に、そして確実に目的地まで届けることです。この目的の違いが、仕事のあらゆる側面に影響してきます。



求められるスキルの違い

強電工事では、高い電圧を安全に取り扱うための知識や、太いケーブルや重い機器を扱うための体力が求められます。何よりも、感電や火災といった大きな事故を防ぐための、厳格な安全管理が最優先されます。

一方、弱電工事では、より繊細で精密な作業が求められます。扱うのは、LANケーブルや光ファイバーといった、デリケートな線です。少しでも傷つけたり、接続を間違えたりすると、情報は正しく伝わりません。また、LANケーブルの配線では、IPアドレスの設定といった、IT・ネットワークに関する知識も不可欠になります。



仕事の進め方と連携相手

工事の進め方にも違いが見られます。強電工事は、建物の骨格に関わるため、比較的早い段階から、建築や躯体(くたい)工事と連携しながら進められます。一方、弱電工事は、内装の仕上げ段階で作業することが多く、ITシステムの担当者や、時にはインテリアデザイナーなど、より多様な関係者と打ち合わせを重ねながら仕事を進めていくことになります。

どちらが良いというわけではなく、仕事の性質そのものが異なるのです。ご自身がどちらの働き方に、より興味や適性を感じるかを考えてみるのも面白いかもしれません。




なぜ今、弱電設備工事の将来性が注目されるのか?

これまで見てきたように、弱電設備工事は私たちの社会に深く根ざしています。そして今、いくつかの大きな時代の流れが、この分野の重要性と将来性を、さらに高めているのです。



あらゆるモノが繋がる「DX・IoT化」の加速

一つ目の追い風は、社会全体のデジタルトランスフォーメーション、いわゆる「DX」と、「IoT(モノのインターネット)」化の進展です。オフィスでは、Web会議システムやクラウドサービスの利用が当たり前になり、家庭では、スマートスピーカーやネットワーク対応の家電が増え続けています。あらゆるモノがインターネットに繋がる社会では、その情報を伝達するための高品質なLAN配線や、安定したWi-Fi環境の構築が不可欠です。この流れは今後ますます加速していくため、弱電設備の需要が減ることは考えにくいでしょう。



高まる「セキュリティ意識」

二つ目の追い風は、社会全体の安全・安心に対する意識の高まりです。より鮮明な映像を記録できる高画質の防犯カメラや、顔認証などの技術を使った高度な入退室管理システムなど、セキュリティ設備の需要は年々増加しています。人々が安心して暮らせる社会を築く上で、弱電技術者の役割はますます重要になっています。



「防災・減災」への継続的な投資

そして三つ目が、防災・減災への取り組みです。日本では、地震や豪雨といった自然災害への備えが常に求められます。火災の発生をいち早く知らせる自動火災報知設備や、災害時に正確な情報を伝えるための緊急放送設備は、人々の命を守るための生命線です。これらの設備の設置や更新は、法律で定められていることも多く、安定的かつ継続的な需要が見込める分野です。


これらの大きな時代の流れが、弱電設備工事という仕事の将来性を、非常に明るいものにしているのです。




弱電技術者になるために必要なスキルと学習法

将来性あふれる弱電設備工事の世界で、プロフェッショナルとして活躍するためには、どのようなスキルや知識が必要になるのでしょうか。この仕事は、伝統的な電気工事の技術と、最新のIT技術が融合した、少し特殊な分野です。



「電気」と「IT」、二つの知識の融合

まず土台として、電気の基本的な知識は欠かせません。多くの場合、その証明となるのが「第二種電気工事士」の資格です。しかし、弱電の世界では、それに加えて、IT・ネットワークに関する知識が同じくらい重要になります。例えば、LANケーブルを配線するだけでなく、ネットワーク機器の設定を行ったり、通信がうまくいかない原因を特定したりすることも、大切な仕事の一部です。電気とIT、この二つの分野にまたがる知的好奇心が、あなたを優れた弱電技術者へと成長させてくれるでしょう。



専門性を証明する関連資格

第二種電気工事士の資格に加えて、さらに専門性を高めるための関連資格も存在します。例えば、電話回線や光ファイバー回線を建物内の通信機器に接続する工事に必要な「工事担任者」という国家資格は、情報通信分野で働く上で非常に強力な武器になります。こうした資格を取得することで、仕事の幅はさらに広がっていきます。



最も大切なのは「学び続ける姿勢」

しかし、何よりも大切なスキルは、特定の知識や資格そのものよりも、「常に新しいことを学び続けようとする姿勢」かもしれません。弱電の世界は、技術の進歩が非常に速い分野です。数年前に最新だった技術が、あっという間に時代遅れになることも珍しくありません。だからこそ、新しい技術や製品に常にアンテナを張り、積極的に知識を吸収していく探求心が、この世界で長く活躍し続けるための鍵となります。


もしあなたが、常に新しい技術に触れながら、専門性を高めていきたいと考えるなら、社員の学習意欲を積極的に支援してくれるような会社を探してみるのも良いでしょう。

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変化の時代をリードする、技術者としての新たな選択肢

この記事では、弱電設備工事という、もう一つの電気工事の世界について見てきました。それは、単に伝統的な職人の技術を受け継ぐだけでなく、ITや通信といった、日進月歩で進化する分野と深く結びついた、非常にダイナミックなフィールドです。


強電が社会の力強い「動力」を支える仕事だとすれば、弱電は社会のしなやかな「情報網」を創り上げる仕事と言えるかもしれません。そこに優劣はなく、どちらも私たちの暮らしに不可欠な、誇りある仕事です。


変化の激しい時代だからこそ、新しい技術を学び、自らのスキルをアップデートし続けることに喜びを感じられる人にとって、弱電設備工事は、大きなチャンスとやりがいに満ちた、新たなキャリアの選択肢となるはずです。この記事が、あなたの持つ「電気工事」のイメージを少しでも広げ、未来の可能性を考える一助となれたなら幸いです。

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